Tom Harrell『Wise Children』(BMG)ASIN:B0000BXN0M

今回のTom Harrellの新譜は前にも書いたとおり十数人編成で、Dianne Reeves, Claudia Acuna, Jane Monheit, Cassandra Wilsonの4人の女性ヴォーカリストが1曲ずつゲストで参加している。

  • Recorded on May 28-30, 2003
  • Tom Harrell(tp,flh,balafon), Jimmy Green(ts,fl), Xavier Davis(p,rhodes,etc), Ugonna Okegwo(b,e-b), Quincy Davis(ds)

*曲によってTrombone,Bass Trombone, French Horn, Violin,Viola, Acoodion, Congas, Bongosが入る。

  • 1.Paz 2.Straight to my Heart 3. Kalimba 4.Radiant Moon 5.What Will They Think of Next 6.Snow 7.Heavens 8.See You at Seven 9.Leaves 10.Wise Children

*2. with Diann Reeves, 4. with Claudia Acuna, 6. with Jane Monheit, 9. with Cassandra Wilson
中心となるクインテットの面子は前作の『Live At The Village Vanguard』と同じだ。それ以外のメンバーは主にアレンジ部分やバッキングでのみの参加となっている。曲はヴォーカル参加曲以外オリジナルで、1曲目からかなり手の込んだアレンジがされている。他の曲も半端じゃない凝りようで、ポップス感あふれる仕上がりだ。曲も8ビート、16ビート系、バラードが多い。逆に4ビートは1曲もなし。特にヴォーカルが参加している曲は普通のポップスにさえ聞こえる。そういう部分にはあまり詳しくないのでコメントは控えるが。近年のTomのアルバムの傾向として、ビッグバンド編成やストリングスアレンジを主体とした、アレンジ中心の作品作りを強く意図しているのが感じられる。そういう意味では、このアルバムも彼の作曲とアレンジがまず音楽の中心にあって、その中で各人がソロを受け持つという形を採用しているようだ。アドリブを引き立たせるために隠し味としてアレンジを入れているというよりは、むしろ両者の関係をお互いに尊重しあうように計算して構成されているという印象を受けた。
それで肝心のTomだが、作曲とアレンジの部分に関してはかなり力を入れている。佳曲ぞろいだし、ストリングスのアレンジも素晴らしい。ソロの部分に関してはなんというかいつもどおりだ。よく歌っているし、フレーズも流れるように出てくる。でも、なんだかキレが無いなあと思う部分もある。やっぱり年を取ってしまったからなんだろうか。いい意味で枯れた味わいが出てきた部分もあるけれど(特にスローナンバーの演奏は本当に素晴らしい)、でもそのキレの鈍さがどうしても耳についてしまう。
個人的に僕が彼の絶頂期(演奏面において)だと思っている70年代後半から80年代にかけての作品と比べると、何かが足りないと僕は感じる。その欠けた部分を補いながらこのCDを聴いていると、まるで自分が思い通りの演奏ができなくて苦しんでいるような感覚に陥ってしまう(もちろん僕と彼を比べるなんていうのはとても失礼なんだけど)。もしかしたら彼もそう感じているのかもしれない。そしてそれを補う答えがこの凝ったアレンジというのであれば、僕はただ頷くだけである。
10曲目のタイトル曲を聴くたびに僕はいささか複雑な気分になる。まるで訥々と語りかけるようにゆっくりと音符を置いていくTomは何を考えながらこの曲を吹いていたのだろうか。そのように考えてしまうのも、僕がまだ若いからかもしれないし、あるいは歳を取ってしまったからかもしれない。